【コラム】今治を卒業する人たちへ(管大樹)
「四月物語」予告編URL
桜が咲く頃になると、思い出す気持ちがある。
「四月物語」という映画をご存知だろうか。
監督は「Love Letter」「スワロウテイル」の岩井俊二で、北海道から上京したばかりの女子学生が、戸惑いながらも新しい街での生活をはじめる日常を描いた1998年の作品だ。
大学進学のため、故郷を離れて東京で一人暮らしを始めるヒロインを、20歳の松たか子が演じている。70分の短いストーリーの中で、いつか見たことがあるような四月の風景と、誰もが新生活の最初に感じたことのある心の動きが、桜の舞う穏やかな光の中に表現されている。
僕も高校を卒業した数週間後、大学へ進学するために上京した。
初めて借りたアパートは、桜並木の通り沿いにあった。
東京では、もう桜が咲いていて、雪国からやって来た18歳の僕に「遠くに来たんだ」と思わせるには十分だった。
ベランダから通りを見下ろすと、行き交う様々な人々が桜の花と一緒になって、モザイク画のように見えた。
知ってる人が一人もいない街で、初めての一人暮らし。これから自分が、この街で何者になっていくのか、自分にも分からない。不安と期待が入り混じる気持ちの中で「大人になるって、こういうことなのかな」と、思ったりしていた。
みんなは今治を巣立っていく。僕は戻って来いとは言わない。むしろ、将来も住む場所は今治以外を選んでも構わないと思っている。
人によって合う土地は違う。大人が押し付けるものでもない。
いろんな場所に住んで、いろんな人と出会って、自分が幸せだと感じるところで暮らせばいい。
「今治には何もない」と感じてきたかもしれない。
だからこそ、何もないところでも、何かを生み出せるチカラを、これから身につけてほしい。
もし、そうする事ができたら、いつかこの街で挑戦してみるのもいいと思う。
卒業、おめでとう。
<筆者プロフィール>
管大樹(かん だいき)1978年山形市生まれ。都内でバリスタ、レストランマネージャー、専門学校設立プロジェクトを経て独立。外食コンサルタントとして、教育カリキュラムの作成・企業向けセミナー等を行う他、日本の食文化の再発見を目的としたイベント企画、レストランのスタートアップサポートを行う。2016年10月より地域おこし協力隊として今治へ移住。翌年4月に商店街に中高生向け施設「F;今治の中高生のひみつきち」、10月に小学生向けプログラミング教室「テックプログレス 今治連携校」を開設。子ども達の未来を見据えた事業の開発から商店街エリアの再生を目指す。(デスメタル好きなわけではなく、本稿でマニアックな文化の一例として取り上げた)
「テックプログレス 今治連携校」では受講生を募集しております。詳しくはホームページをご覧ください。https://tp-link-imabari.wixsite.com/imabari-techprogress