【コラム】東京での暮らし(管大樹)

朝、時間になるとGoogle home(スマートスピーカー)から聞こえてくる音楽で目を覚ます。

Googleカレンダーが今日から参加するプロジェクトのスケジュールを読み上げるなか、身支度を始める。アプリが今日の予定と天候に最適なコーディネートを導き提案してくれる。

でも、いつもだいたい同じ服になる。特別な人と会う約束は殆どない。スマホだけを持ち仕事場へと向かう。

外に出るとスマホのアラートが鳴り、仕事場のある新宿・四谷方面へ向かうUber(自動運転の乗合タクシー)が近くにいることを教えてくれる。それを無視して10分ほど歩いて駅へ向かう。

Uberに乗れば、20分程で着いてしまうが、見ず知らずの人と狭い車内で向かい合って乗り合わせるのが、なんとなく気まずい。遠回りでもガラガラの地下鉄で移動する方が気楽だし、健康アプリに今週は運動不足だという事を指摘されているから、朝のうちに少しでも歩いておきたい。

そもそも出かける必要なんてない。仕事は自宅でもできるし、今日から参加するプロジェクトも出勤の必要はない。

ほとんどのやり取りはSlack(ビジネス用SNS)で済むし、相手の顔色を見ながら話を合わせるよりも、メッセージでのやり取りの方が、仕事では適切にコミュニケーションが取れる。

僕は会社というものに所属したことがない。個人単位で仕事をすることが当たり前の社会になった。

今や企業に所属しているのはインターンの大学生か、若手ばかりだ。ほとんどの働く人たちは、ある程度の経験を積むと会社から離れていくのが普通だ。

独立して自宅で仕事をするようになり、しばらく経つと誰もが「家では集中できない」「引きこもりになってしまう」などの理由から、シェアオフィスに入居しようとする。

シェアオフィスはどこも会員制で、それぞれ独自の入会基準あり、審査はAIが行っていた。仕事での実績やスキルに加え、性格検査など。AIによる厳格な審査をパスした者だけが入居を許されるビジネスコミュニティ、それがシェアオフィスだった。だから、「どこのシェアオフィスの会員か」ということが、ある程度のステイタスになっていた。

僕が入居しているコミュニティは、とにかくいろんな業種の人を集めること目的にしていた。四谷にある古い書庫を改装して造られたこの場所は、会費も安く、1階のカフェをフリーで利用できるし、イベントも盛んに行われている。

スキルの高い人ばかりが集まるわけではないが、割りと人気のコミュニティだった。たまにトッププレーヤーの入会希望者が現れたりするが、どんなにすごい人でも既存会員と同業であれば入れない。コミュニティ内に同業者がいないということが、居心地の良さを生み出し、会員の定着に繋がっていた。

ここに来れば、必ず誰かがいるし、顔見知りとカフェでコーヒーを飲んだり、煮詰まった夜は何人か誘って呑みに出かけることもあった。誰もが別の業種なので、仕事のことを話題にすることはあまりない。いつも会話の内容が、どうでもいいことに終始するので気楽だった。

毎日、時間をかけて“通勤”するのは、ここの入居者たちと会い、言葉を交わすためで、仕事がはかどるからではなかった。ここに来なければ、1日中誰とも話さない。1週間〜10日間、誰とも口を聞いてないなんてこともあった。

大学進学と同時に東京で暮らし始めた。東京で生活は変わった。

上京したばかりの頃は、オシャレなショップで洋服を買ったりするのが楽しみだった。でも、いつしか店頭に並んでいる品物は、ネットで見たことがある物ばかりになり、目新しさはなくなっていった。

だんだん、買い物のために外に出るのが面倒になり、仕事を始めてからは、ほとんど買い物らしいことをしなくなった。今は日用品から洋服、家電、健康器具にいたるまで、全てamazonがレコメンドした品物から選択して、スワイプすれば翌日には宅配ボックスに入っているし、スーパーに行かなくても、食料通販のAIが、好みの食べ物や、今が旬の果物や野菜をピックアップし、隔週で届けてくれる。

現金というものを目にすることがなくなった。財布も、持ち歩かなくなった。

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この話は、東京での僕の暮らしでなく全て想像上のこと、フィクションだ。

自分が20年間東京で生活してみて感じた「未来」を、この文章に表してみた。僕の想像力は乏しい。こんな生活(Uberが走っている以外)を送っている人はもうたくさんいる。今の高校生達は数年後、こんな生活を送るのかもしれない。

この「東京での暮らし」では、シェアオフィスという新しいコミュニティの出現が描かれる一方、人とのコミュニケーションの場は少なく、孤独な印象を受ける。社会は、対面でのやり取りや、コミュニケーションの削ぎ落としを求めているのだろうか。

社会が求めて来たのは別のもの。「スループット」だ。

スループットとは、「一定時間で処理できる作業量や情報量」のことを指す。例えば、歩いて移動するよりも、車で移動した方が一定時間内で移動できる距離は増すので、スループットは高くなる。

高いスループットを求め、みんなが車で移動するようになった。そして、車で移動する人向けに、広い駐車場のある大型ショッピングセンターが、あちこちの郊外にできるようになった。

一方、全国津々浦々に存在していた小さな店の集積地“商店街”では、永遠にシャッターを下ろしたままの店が増えていった。

そして、みんながインターネットに繋がった今、さらに高いスループットが可能な社会になった。物を買うのに出かける必要がなくなった。会社にいかなくても、組織に所属しなくても出来る仕事が増えていく。

高いスループットを求めるとは、言い換えれば、「高い利便性を求める」ということ。

みんなに車を運転させ、インターネットに繋げたこの流れは、もう不可避だ。僕が今治に来るきっかけになったテーマ「商店街エリアの衰退」も、最近始まったことではなく、随分前から始まっていて避けることのできない大きな流れのほんの一部なのだ。

私たちは、今もその流れの中にある。

筆者プロフィール

管大樹(かん だいき)1978年山形市生まれ。都内でバリスタ、レストランマネージャー、学校法人で専門学校の設立プロジェクトを経て独立。専門学校講師・教育カリキュラムの作成等を行う他、日本の食文化の再発見を目的としたイベント企画を行う。2016年10月より地域おこし協力隊として今治へ移住。翌年4月に商店街に中高生向け施設「F;今治の中高生のひみつきち」、10月に小学生向けプログラミング教室「テックプログレス 今治連携校」を開設。子ども達の未来を見据えた事業の開発から商店街エリアの再生を目指す。

https://tp-link-imabari.wixsite.com/imabari-techprogress

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