【コラム】療育施設と保育所・幼稚園の利用について(高橋歩美)
前回、療育施設について書きましたが、今回は当初の予定を変更して、療育施設と保育園、幼稚園などの利用、併用について私なりの意見を書きたいと思います。
市内の児童発達支援事業の施設には毎日通園のできる施設がいくつかありますが、前回も書いたように、利用希望の子どもたちは増加傾向にあり、希望通りの日数や施設を利用できない現実があります。
日数を確保するために、複数の施設と契約をし、週に数回療育施設を利用しながら、それ以外の日を保育園や幼稚園、自宅で過ごすお子さんは多いと思います。
最近は共働きの家庭も多いですし、そのように複数の施設を利用しているお子さんも多いと思われます。
実際私は今2歳10か月の息子を、平日週5日保育園に通わせながら、週3日の日中と土曜日に療育施設を利用しています。
ちなみに週3日という日数はどこからきたのかというと、昨年から週3日療育施設、2日保育園というスタイルで問題なく通えていたので、今年度の仕事復帰の際に、施設の方や、担当医師にも相談して、今の日数を無理に変更する必要性はないと判断したためです。
実際、今のところ大きな乱れや問題はなく楽しそうに通えていますが、この先の様子次第では毎日通園に切り替える必要もあるかもしれないことは頭の中に入れています。
療育を初めたばかりの頃、療育施設を利用する際に話を聞いたとき、どの方にも、1日よりは2日、2日よりは3日、できたら毎日同じように療育した方が伸びる、と言われてきました。日数を確保しながらも利用施設の数はなるべく減らす。思い切って毎日通園に切り替えること。様々な観点から悩む日々が続きました。
私は保育園には保育園の良さ、療育施設には療育施設の良さ、家庭には家庭の良さがそれぞれあると考えています。
療育施設で得て学んだことを幼稚園や家庭で汎化する、そうやって療育施設だけでなく色んな場所で子どもを支えていく子育ての方法もいいのではないかと考えています。もちろんそれがその子に合うかどうか、できるかどうか。子どもさんの特性や実態にもよってこの考え方は変わってくると思います。
親元から離れるだけでも大変だったり、人見知りが強い子や環境の変化が苦痛なお子さんにとっては、これは難しいことだと思います。
この考え方はどの環境にも案外適応できるという私の息子に対してになるかもしれませんが、私は困難があるからといって初めから療育施設にだけ頼るというのではなく、地域で子どもを育てるためにどうすればいいかを考えるようになりました。そのきっかけをくれたのは保育園での出来事でした。
息子は、家庭や、家族といるときは特に散歩もままならないほどの多動な行動をとります。
息子がまだ小さかった時にはベビーカーを押してよく散歩していたものの、症状が出始め、2歳前にもなると途中でベビーカーから降りて脱走してしまい、乗せたくても泣き暴れ、仕方なくベビーカーを道に置き去りにし(笑)、帰ろうとしない暴れる息子を抱きかかえ、汗だくになりながらなんとか家に帰る。そんな私が疲労困憊の散歩になっていました。
それは買い物など外出する先々でも同じでした。まだ上の子も4歳と3歳と小さかったため、3人を連れての行動には限界があったのもあり、気づけば私が行動を抑制し、息子を連れての外出を避けるようになっていました。
その当時通っていた療育施設での散歩はどうなんだろうと、聞いてみると、危ないのもあり散歩自体に行ってないという話も聞いていて、散歩は当分難しいなと思っていました。そんな矢先、保育園での散歩の際、息子がお友達とリードを持ち、一緒に歩いて公園に行っているという話を聞きました。
あの息子が?私は耳を疑いましたが、私が知らなかっただけで以前から保育園ではみんなに合わせて歩いて散歩に行けていたそうです。
先生が言うには、初めのうちはリードからよく手を放す姿も見られて、危ない時や遅れがちな時には声掛けをしようとしていたらしいのですが、そのうちに周りの友達が息子に合わせるような様子が見られ、また息子もそれに応じてスピードを合わす様子が見られたとのことでした。そうしてみんなで歩くようになっていったそうです。
そんなことできるわけないと思っていました。まだ2歳の子どもたちが、と。でも私が感じているよりも子どもたちは自分で考え、行動する力を持っているのだと気づかされました。
息子は人より困りごとはあるかもしれない。でもできないわけではない。できそうにないからやらないのではない。できそうもないから私がやらせてないだけ。やらないからできないんだ、と。選択肢を狭めたのは私だと。この時気づかされました。
このことは環境のことだけでなく、どんな支援をするのか、という観点でも同じです。
よく自閉症の子は視覚支援が有効と言われますが、自閉症だから必ずしも有効とは限りません。自閉症だからこだわりが必ずあるわけではありません。その子の特徴や特性に視覚優位があるのであれば、それに合う視覚支援をすればいいし、聴覚過敏があればそれに対してイヤーマフなどの対応をすればいいと思っています。
発達障害といっても千差万別で、自閉症スペクトラムと診断されても同じ子なんていません。自閉症だからどうだとか、ADHDだからどうだとか、診断名に引っ張られるのではなく、その子の個性を見て支援方法を考えてほしいと思います。
傾向をまとめたものとしてハウツー本などを読んで知識を増やすのはいいことだと思いますが、それだけに囚われて、本人の「個性」が見えなくならないようにしてほしいと思います。
あれもできない、これもできないと焦りを感じ始めていた時、「え?そんなことないよ。かなたくん〇〇もできてますよ。○○もできるようになりましたよ。すごいですよ。」と保育園の先生がいつも帰りに声をかけてくれていました。その時、いつもはっとしてました。
私は息子を「自閉症」としか見ていなかった。「2歳の男の子、かなた」を見失っていました。
そう気づいたときに、素直に「ごめんね。」と感じて、自分がこの子をどう育てて、どんな人になってほしいのかについてやっと本気で考えられたような気がします。
私はこの子を地域で育てたいと考えています。
発達障害がこの先どの程度になるかはわからないし、先のことを考えると不安もあるけれど、先のことは誰にもわかりません。今、私ができることは、今の息子の困りごとを理解し、それを少しでも軽くするための支援方法を見つけていくこと。その支援方法を私だけでなく息子に関わる全ての人と共有し伝えていくこと。
そのために必要な知識を療育施設の先生たちからもらい、それをできる限りで実践して反省し、を繰り返していくこと。成長するにすれ変化する息子の困りごとに気づくこと。これは日々の生活を共にする家族には感覚が麻痺してしまって気づきにくいことかもしれませんが、気づいたなら、そのあとの対処法は専門の知識のある人に相談して教えてもらったり一緒にやっていけばいいと思います。最近はSNSなどを通して様々な情報を手に入れることだってできます。活用できるものはどんどん活用すればいいと思います。
自宅で一人でしようと思ってもなかなかできることは少ないし、家庭には家庭の良さがある、それも大切なことだと思っています。
家庭環境は様々です。我が家であれば、3人の子どもたちがいて、息子のことも大事ですが同じように上2人のことも大切に考えながら家族がバランスを崩さないようにすることが一番大切だと思っています。だからといって支援は施設に任せて、家は何にもしないとかではなく、各家庭でできることをできるときにやっていくことが大切だと思います。家庭、保育園、幼稚園、療育施設、それぞれの役割をしっかり把握しながら取り組むことが大切ではないかと感じています。
そのためにも一番そばで関わる保護者の方が元気でいること。無理をせず、できることを頑張る、それでいいと思います。だってみんな過酷な子育てを24時間365日休むことなくとてもよく頑張っています。それだけでもすごいことではないでしょうか?と、たまには自分を甘やかして息抜きしながら頑張りすぎず頑張っていけたらいいなと感じています。
私も最近また息子との散歩を少しずつ頑張っています。最近はベビーカーではなく、息子は三輪車がお気に入りのようで、三輪車に乗り、漕ぐことはできないけれど、足で蹴りながら近くの小学校まで行くようになりました。
途中、川や田んぼに落ちそうになったり、川の流ればかり見て何時間もかかったり、「行きはよいよい帰りは地獄」で帰りは三輪車を乗り捨ててしまったり、無事に帰宅できるのか、依然としてヒヤヒヤものですが、前よりも私に心のゆとりができて、楽しめるようになった気がします。
1年前より半年前、半年前より今、息子は着実に成長しているのを感じています。今回は散歩のことを例に挙げましたが、日々の生活の場面で、ついついこちらが勝手に判断し、息子の選択肢を狭めていないか、時々振り返り見つめ直すことが大切だと感じています。
高橋歩美