【コラム】プログラミング教室で起きていること(管大樹)

今治では、高校を卒業すると多くの子ども達は、故郷を巣立って行く。

もし、高校卒業後にアメリカに行くと決まっていたら、小中高では、必死に英語の勉強をするだろう。でも、誰もが卒業後に向かう先が、アメリカというわけではない。

しかし、高校卒業後、子ども達全員が向かうことになる場所がある。

それは「未来」だ。

未来に向かう子ども達は、プログラミングを学ぶ必要がある。なぜなら、アメリカで英語が使われているように、未来ではテクノロジーが使われることになるからだ。

 

小学校が廃校になり、子ども達のコミュニティが次々と姿を消していくこの街で、子ども達のための新しい環境を作りたい。

そんな想いで、一昨年の秋、プログラミング教室を始めた。商店街の一角の小部屋で、3クラス15人の子ども達と一緒にスタートしたこの教室も、現在では7クラス。

30人の子ども達が学んでおり、さらに来月からはクラスを増設し、新入生の募集も行っている。

子ども達がプログラミング教室で何をしているのかというと、PC上で写真のようなブロックをマウスで動かして組み上げ、ゲームやアニメーションを作成している。

組み上げたブロックの通りに右画面のキャラクターが動き、ブロックの組み合わせ方が、様々なプログラミング言語を習得するためのベースになっていく。

教室では、テキストを参考にしながら自分なりの工夫を加え作成していく。中には、全くテキストを見ずに、ただ自分の中にあるイメージをもとにゲームを作り上げる子もいる。

「今治を巣立つ高校卒業までには、スマホのアプリが作れるようなレベルに」

プログラミング教室を初めたばかりの頃は、そんなことを目標にしていた。しかし、ここで学んでいる子供達は、プログラミング以外に、何か別のものを身につけ出していることに気づいた。

インプットしたことの実践と活用の繰り返しで、感じるように理解する数的感覚

プログラミングでゲームを作るには、数学の知識が必要になる。

例えばロケットを発射する操作をプログラムするときは、ロケットをどの場所から、どっちの方向に、どれくらいのスピードで飛ばすかを全てプログラムしておかなけれならない。それには、角度、速度、座標での位置参照などを全て数値で入力することになる。角度や速度が何であるか、それと座標の考え方は簡単に伝える(やりすぎるとお勉強になってしまう)。

それらの軽いインプットをもとに、子ども達はロケットの軌道をイメージに近づけるために、何度も数値の入力を繰り返し、その度にロケットの軌道を確かめる。

こうした、数値という「抽象的概念」と、ロケットの軌道という「具体的現象」を行ったり来たりしているうちに、数的な感覚を自然と身につけていく。

つながりを理解しながら不具合の原因を探し出すことで身に付く読解力

面白いゲームを作ろうとすればするほど、登場するキャラクターの数は増えていく。そしてキャラクター同士の関係性も複雑になっていく。

例えば「敵Aを倒したら、敵Bが出てくる。その後は敵Aは出てこない」という設定を作りたいとする。この時、プログラムの中には4つの要素が必要になる。

・Aを表示する

・Aを消す

・Bを表示する

・Bを消す

4つの要素それぞれを、どの状態の時に作動させ、どの状態の時には止めておくのか。よく考えてプログラムしなければならない。

ここで大事なのは、うまく行かなかった時、不具合の原因を自分の力で探すことだ。プログラムは組まれた通りにしか実行されない。うまく行ってない状態をよく観察し、組まれたブロックを読み、不具合の発生ポイントを見つけ出し、修正する。

これを繰り返し行うことで、分析・構造的に文章や話を理解したり、論理的かつ建設的に自分の考えを組み上げる構成力が身に付いていく。

正解のない問いに挑むことで身に付く問題設定力

子ども達はゲームが出来上がると「出来たのでプレイして欲しい」と求めてくる。そうすると重大な欠陥があることに気づく。

それが「ゲームがつまらない」ということだったりする。

ゲームを面白くするには「どうなったら楽しくなるのか」という問題設定から自分でしなければならない。しかも、そうして設定された問題に、正解はない(でも、つまらないという不正解はある)。

自分が面白いと思う感性と、他人が面白いと感じる観点をすり合わせながら、工夫を重ねて行くしかない。各単元の最終課題にオリジナルゲームの制作がある。制作期間は短くとも1ヶ月、長ければ半年もの時間をかけ、子ども達は正解のない問いに挑み続けている。

教室では、中学生・高校生になっても継続してプログラミングを学習でき、自分の興味のある分野を探究していけるように準備を進めている。スマートフォンアプリやウェブサイト開発の学習環境を整え、本格的なプログラミングを学べるようにすることはもちろん、DTM(デスクトップミュージック)、グラフィクデザインや画像・動画編集、3Dコンピュータグラフィックのアニメーション。3Dプリンタも置いて立体作品も作れるようにしていく予定だ。

そして、中高生になったら「協働プロジェクト」も企画していく。

小学生の頃から同じ教室で学び、同じレベルのリテラシーを身につけた者同士。興味によって学ぶコンテンツが変わり、センスにも違いが出て来た頃。一つの作品づくりに協働で取り組む。どんな化学反応が生まれるのか楽しみだし、この時なら「人の感情に訴えるには」といった深いテーマでも扱っていけると思う。

とにかく、プログラミングに加え、映像やグラフィック、音楽など、それぞれの得意分野を一つの作品に入れ込みながら編集し、何かを伝えるための表現を、集団で作っていくのは、とても面白いし勉強になるだろう。

様々なことができる環境の中で、自分が興味のあることに夢中になって取り組み、能力を伸ばしていくのが一番だと思う。興味があるということは、何かしら自分と関係があること(親の影響だったりもする)。

その部分を深く知ることは、自分自身を知ることであり、自分と社会との接点を見出すきっかけにもなる。

未来は、圧倒的な多様性に向かって開かれていて、そこには膨大な数の選択肢がある。しかし、人間に代わり人工知能やロボットが稼働し、多くの仕事がテクノロジーに代替される。

だから、子ども達には、自分のやりたいことを、自分の意志で見つけ出し、それを「新しい職業」として社会に打って出る力を身につけて欲しいと思っている。逆に、それが出来なければ、世の中で自分の役割を見つけることは難しい時代になるだろう。

 

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<筆者プロフィール>

管大樹(かん だいき)1978年山形市生まれ。都内でバリスタ、レストランマネージャー、専門学校設立プロジェクトを経て独立。外食コンサルタントとして、教育カリキュラムの作成・企業向けセミナー等を行う他、日本の食文化の再発見を目的としたイベント企画、レストランのスタートアップサポートを行う。201610月より地域おこし協力隊として今治へ移住。翌年4月に商店街に中高生向け施設「F;今治の中高生のひみつきち」、10月に小学生向けプログラミング教室「テックプログレス 今治連携校」を開設。子ども達の未来を見据えた事業の開発から商店街エリアの再生を目指す。(デスメタル好きなわけではなく、本稿でマニアックな文化の一例として取り上げた)

「テックプログレス 今治連携校」では受講生を募集しております。詳しくはホームページをご覧ください。https://tp-link-imabari.wixsite.com/imabari-techprogress

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